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「とりわくるときの香もこそ桜餅」

🌸俳句の旅
「とりわくるときの香もこそ桜餅」
久保田万太郎

この一句は、桜餅を分け合うひとときに立ちのぼる香りまでを丁寧にすくい上げた、繊細な表現が魅力です。目に見える情景はごくわずかでありながら、香りという感覚を通して、その場のやわらかな空気や人のぬくもりまで伝わってきます。

現代ではあまり使われなくなった言い回しの中に、日本語特有の奥行きと余情が感じられます。桜餅という具体的な存在を軸にしながらも、主題は「分ける」という行為そのものではなく、その瞬間に広がる気配や喜びにあります。

香りに託された感情は、言葉で説明するよりも豊かに伝わるものです。誰かとともに過ごす時間、ささやかな和菓子を囲むひととき —— そうした日常の中にある美しさが、この一句には凝縮されています。

日本の暮らしの中で育まれてきた感性や、美意識のやさしさ。何気ない瞬間を大切にする心が、静かに息づいている一句です。