🌸俳句の旅
「麗らかに捨てたるものを惜しみけり」
矢島渚男
この一句は、春のやわらかな空気の中で、ふと過去を振り返る静かな時間を映し出しています。手放したものへのわずかな名残を感じつつも、その選択を受け入れていく心の余裕が、穏やかな季節感とともに伝わってきます。
人生において何かを手放すことは、新たな一歩でもありますが、同時に小さな寂しさも伴います。この俳句は、その感情を過度に強調することなく、あくまで自然の流れの中に溶け込ませるように描いています。まるで自身が風や光と一体になり、周囲の景色の一部となっていくような感覚です。
時間の捉え方にも、この作者ならではの深みがあります。過去と現在が交差しながらも、どこか軽やかで、前向きな余韻を残す表現に思わず引き込まれます。同作者の「流星やいのちはいのち生みつづけ」にも見られるように、時間や存在を大きな流れとして捉える視点は見事であり、読む者に豊かな余白を与えてくれます。
